
渋谷のクレーン、結局いつ終わるの?——都内の再開発をのぞいてみた
港区や渋谷区といった都心のハイクラスエリアで住まい探しをしていると、必ずと言っていいほど目にするものがある。それが「クレーン」だ。物件の内見に行くたびに、駅前にそびえるクレーンが変わらずそこにある——そんな経験をした方も多いのではないだろうか。
この記事では、東京・渋谷を例に「なぜクレーンはあんなに長く街に立ち続けているのか」を、仕組みからひも解いていく。
1. 渋谷のクレーン、実は「同じもの」じゃなかった

「100年に一度」の再開発、その中身
渋谷駅周辺では、2012年ごろから「100年に一度」と呼ばれる規模の再開発が続いている。主体となっているのは東急・JR東日本・東京メトロの3社で、駅ビルや商業施設だけでなく、駅そのものの構造まで作り変えるという、非常に大掛かりなプロジェクトだ。
具体的には、渋谷ヒカリエ(2012年)、渋谷ストリーム(2018年)、渋谷スクランブルスクエア東棟(2019年)、渋谷フクラス(2019年)、渋谷サクラステージ(2023年)というように、エリアを少しずつ完成させながら、次の工区へと移っていくという進め方が取られている。一つのビルが完成しても、すぐ隣や少し離れた場所では別の工事が始まっている、という状態がずっと続いているわけだ。
クレーンが「リレー」している
ここが今回のポイントだ。「一つの現場が終わったらクレーンが消える」のではなく、「エリア全体で見ると、常にどこかしらで新しいクレーンが立っている」という状態が10年以上続いている。渋谷駅の真上・真横でも今なお工事が進んでいる区画があり、しばらくはこの状態が続くと見られている。
つまり「渋谷のクレーンは何年も同じ」と感じるのは、実際には同じクレーンをずっと見ているのではなく、次々と現場が入れ替わっているのを『渋谷=工事中』という一枚の風景として認識している、というのが実態に近い。街が生き物のように少しずつ姿を変え続けている、と捉えるとイメージしやすいだろう。
2. ビル1棟に3〜5年かかるワケ

工期の内訳
高層ビル1棟の工期は、規模にもよるが、着工から竣工までおおよそ3〜5年かかるのが一般的だ。内訳を大まかに見てみると、次のような工程を経ている。
解体・地盤調査
既存の建物を解体し、地下の状況を調査する。都心は地下鉄や埋設物が多いため、これだけで1年近くかかることも珍しくない。
基礎・地下躯体工事
超高層ビルほど地下も深く掘り進める必要がある。
躯体工事(クレーンが一番目立つ期間)
鉄骨を組み上げながら1フロアずつ積み上げていく。この段階でクレーン自体も少しずつ高くなっていく。
内装・設備工事
躯体が終わったあとも、資材搬入などでクレーンが必要になる作業が残る。
外構・オープン準備
このように、クレーンが街に立っている期間=建物が完成するまでの期間、と考えると、数年単位で見えているのも納得がいく。
駅を止められない、という制約。
さらに渋谷のような駅前エリアの場合、「駅や線路を止めずに、乗客を通しながら工事する」という大きな制約がある。実際、渋谷駅の大規模工事では、鉄道各社が始発から終電までの限られた時間の中で線路の切り替えなどの難工事を進めてきたと報じられている。安全を最優先しながら少しずつ進めるしかない事情があり、これも工期が長くなる一因になっている。
こうした制約の多さは裏を返せば、それだけ丁寧に、安全性を確保しながら街づくりが進められている証でもある。エリアの将来性を評価するうえでもポジティブに捉えられるポイントだ。
3. クレーンは"自分で自分を高くしている"

1フロアごとに、自分で背を伸ばす
高層ビル工事で使われているクレーンの多くは「タワークレーン」と呼ばれるタイプだ。実はこのクレーン、最初から今の高さにあるわけではない。ビルが1フロアずつ高くなるのに合わせて、クレーン自身が少しずつ自分の胴体にパーツを継ぎ足し、背を伸ばしていくという仕組みになっている。この方式は「クライミングクレーン」と呼ばれている。
クレーンはビルの中心のコア部分(エレベーターシャフトなど)に固定されており、油圧ジャッキを使って自分自身を持ち上げながら登っていく。そのため、「気づいたらクレーンが高くなっている」という現象が起きるのだ。街を歩くたびに少しずつクレーンの高さが変わっていたとしたら、それは工事が着実に進んでいる証拠でもある。
消えるときも、自分で自分を降ろす
工事の終盤になると、今度は屋上に小さいクレーンを設置し、そのクレーンでメインのタワークレーンを1段ずつ解体しながら降ろしていく、という手順が取られる。つまりクレーンが姿を消すときは、たいてい静かに、少しずつ低くなってから消えていくということだ。ある日突然パッといなくなるものではなく、実は建物の完成が近づいているサインとして、じわじわと姿を変えていく。
この仕組みを知っておくと、「あのクレーン、最近低くなってきたな」という変化から、周辺エリアの完成時期をある程度予測できるようになる。物件選びの際の一つの目安として覚えておいて損はないだろう。
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4. 渋谷だけじゃない。都内で"クレーンが途切れない"街たち

他のエリアでも起きている同じ現象
こうした光景は渋谷に限った話ではない。都内の他の再開発エリアでも、同じような現象が見られる。
虎ノ門・麻布台エリア
森ビルが30年以上かけて進めてきた大規模開発で、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーや麻布台ヒルズが近年相次いで開業したばかり
八重洲エリア
東京駅前で三井不動産などが主導する再開発が進行中
原宿エリア
渋谷の隣町でも東急不動産による開発が進んでいて、2024年には商業施設「ハラカド」が開業した
新宿・池袋エリア
百貨店の建て替えや駅ビルの更新が続いている
港区・渋谷区・千代田区といったハイクラスエリアは、まさにこうした再開発の中心地と重なることが多い。物件探しをする際は、「今クレーンが立っている」ことをネガティブに捉えるのではなく、「これから街の価値がさらに上がっていく可能性がある」というポジティブなサインとして見てみるのもおすすめだ。
リレー形式だから、街区を移りながら何年も続く
共通しているのは、どこも「一発の大工事」ではなく、複数の街区を順番に、何年もかけてリレー形式で開発しているという点だ。だからクレーンが一つ消えても、少し離れた場所に新しいクレーンが立つ、ということが繰り返される。これは東京という街が、常に少しずつアップデートされ続けているということの表れでもある。
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まとめ
渋谷のクレーンが「ずっとある」ように感じるのは、決して気のせいではない。ただし、それは同じクレーンが居座り続けているのではなく、100年に一度と呼ばれる大規模な再開発が、複数の街区をリレーする形で10年以上にわたって進められているからだ。クレーン1本あたりの寿命は3〜5年ほどだが、街全体で見ると、常にどこかで次のクレーンが立ち上がっている——それが東京という街の「今」なのである。
そしてこの変化は、住まい探しをする方にとって決して他人事ではない。今クレーンが立っているエリアは、数年後には駅直結の新しい商業施設や、利便性の高い住環境へと生まれ変わっている可能性が高い。裏を返せば、再開発の"途中"であるこのタイミングこそ、将来性のあるエリアを見極める絶好のチャンスとも言える。

執筆監修

趙暉士(ちょうきし)|宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、管理業務主任者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
賃貸リーシングとコンサルタントを経験し、後に売買仲介業務に従事。
(株)大京穴吹不動産、都心営業部、渋谷店、流通営業1課



